キツネがこんなにかわいいだなんて!

古くから日本人と深いつながりを持っていたキツネ。日本人の印象ではいたずらっ子だけどどこか憎めないヤツといったところだが、これが欧米にいくと評価は一変。ずる賢い、家畜を襲う人間の敵として嫌われまくっていたという。しかし、訪日観光客が増え、日本のキツネ文化に触れることで、徐々にその評価も変わってきているようだ。欧米人の考えを変えつつある日本のキツネ文化、今一度見直してみよう。

 

Text by Shigeki Seike

 

ニッポン人に馴染みの深い動物No.1 !?

国土面積に占める森林面積の割合である森林率が約70%と世界的にも上位にランクされるわが国。豊かな自然に恵まれ、野生動物たちの楽園でもある。そんな数多くの動物たちのなかで我々になじみ深いものというと、どんな動物を思い浮かべるだろうか。

十二支のネズミやウサギ、イノシシ、あるいは日本人なら誰もが知る昔話「桃太郎」にも登場する、イヌ、サル、キジなどだろうか。それらには含まれないが、キツネ、そしてタヌキも日本人になじみ深い動物だろう。なにしろ、日本が誇る伝統的ファストフードにもその名が冠されているくらいである。今日の昼食にきつねそばやたぬきうどんをチョイスしたという皆さんも多いのではないか。

広く知られているように、そばやうどんの「きつね」の由来は、油揚げがキツネの好物とされているからだ。立ち食いそば店のサイドメニューで人気の稲荷ずしも同様。キツネが稲荷神の使いとされているため、油揚げを使ったすしにその名がつけられた。

一方、そばやうどんの「たぬき」の由来には諸説ある。天ぷらのタネを入れない「タネ抜き」がなまったもの、天かすの見た目が腹を膨らませたタヌキを連想させるからというもの、などだ。いずれにせよ、きつねそばやたぬきそばはあっても、ねずみそばやうさぎそばはない。すなわち、キツネ、あるいはタヌキこそが日本人になじみ深い動物の頂点なのだ!……というのはさすがに強引だろうか。

 

ネズミ捕りから神の使いまで。そばには常に“キツネ”の存在

日本をはじめとした極東アジアが生息地であるタヌキはもちろん、キツネも日本人が古くから親密な関係を築いてきた動物であることは間違いない。

対して、ヨーロッパにおけるキツネは害獣として忌み嫌われてきた。実際、狩猟のポピュラーなターゲットでもある。かつてのイギリスの貴族たちは、数十頭の猟犬たちがキツネを追い回し狩ることを馬上から楽しんだ。レジャー、娯楽としての狩猟が行われることがほとんどないといってもいいわが国の文化からすれば信じられないことかもしれないが、イギリスのキツネ狩りは舞踏会や食事会を伴った紳士淑女たちの社交の場でもあったのだ。また、近世のドイツなどでは、編んだ縄で生きたキツネを空中高く弾き飛ばす「キツネつぶし」なるスポーツ競技もあったほどである。

では、世界的には害獣と見なされることが多いキツネに日本人はなぜそれほどまでに好意を寄せるのか。

それは、わが国が稲作をベースにして発展してきた国だからだ。

古代の日本は、稲作を中心とした農耕社会が確立したことで激変。狩猟や漁、木の実などの採集をしながら主に移動生活を行っていた縄文時代に別れを告げ、定住して地域集団を形成する弥生時代に突入したのだ。

ここで問題となってくるのが、生活の中心である稲をいかに守るかということ。自然豊か、というより周囲に自然しかなかった時代、米を狙う害虫やネズミなどの害獣は、人々にとって現代よりはるかに大きな脅威だった。かつて歴史の授業で、高床式倉庫に施されたネズミ返しについて学んだ記憶がある人も多いだろう。

しかし、いかに工夫したところで被害はゼロでは済まない。生産性も今より格段に劣った時代のこと、ネズミなど害獣による稲の食害はまさに死活問題だった。そこで、困ったときは……そう、神頼みである。では、どんな神様に米を守ってもらおうか。どうせなら、ネズミをやっつけてくれる神様がいい。ネズミの天敵というと、今ならネコが真っ先に思い浮かぶだろう。

ところが、かつての日本にはネコはいなかった。イエネコの原産地はエジプトで、経典などの大切な書物をネズミから守るために、中国から輸入されたという経緯がある。日本におけるネコの歴史の始まりは奈良時代ころまで待たねばならない。ネコがいない日本でネズミを退治してくれる頼もしい益獣――それがキツネだった。

今でこそ商工業の神としても信仰されている稲荷神だが、本来は五穀豊穣を司る穀物と農業の神様だ。古代日本ではヘビへの信仰が強く、全国の稲荷神社の総本社・伏見稲荷大社の神域である稲荷山も蛇神信仰の中心地であった。ともにネズミを捕食するヘビとキツネだが、いつしか稲荷神の使いの座をキツネが奪い去ったというわけだ。

一説には、ふわふわとしたキツネの尻尾の色や形がたわわに実った稲穂の形に似ていることも、キツネが稲荷神の使いに位置づけられた所以とされる。稲を食い荒らすネズミを捕らえ、尻尾まで稲穂そっくりのキツネが、穀物と農業の神の使いに選ばれるのは必然だったのかもしれない。

となると、キツネこそが「日本人になじみ深い動物」ランキングの頂点という仮設もあながち大げさともいえないのではないか。なにしろ、キツネは稲作をベースに発展してきたこの国の穀物と農業の神様の使いなのだから。

 

2020年もキツネにお任せ!

2017年末、そのキツネにさらなる援護射撃となるニュースが舞い込んできた。12月7日、2020年に行われる東京五輪のマスコットの最終候補3案が公開された。そのうちの1案にタヌキ、そして2案にキツネをモチーフとしたキャラクターが含まれていたのだ。

外国人に好評だったのはキツネとタヌキがペアを組んだ案。となれば、タヌキもその人気に大いに貢献しているようだが、外国人の中からは「白いキツネが日本らしい」との声も。一部の日本通外国人のあいだでは、稲荷神の使いである白狐の存在も知られているのかもしれない。

最終案は小学生の投票により決められるが(※編集部注:残念ながらキツネ案は落選)、オーストラリアの公共放送局・ABCが行ったアンケートでは、同案が46%と半数近くの票を集め断トツの1位に輝いた。キツネの生息地は世界中の至る所に及ぶ。かつてイギリスの植民地だったオーストラリアにもキツネ狩りのために輸入されたキツネが繁殖して現在も生息している。にもかかわらず、オーストラリア人にとっても、キツネは日本らしさを感じさせる動物ということだ。

かつてのジャポニスムのほか、現代ならアニメなど、他に類のない独自の文化で世界に大きな影響を与えてきた日本。今度は、欧米で長く忌み嫌われてきたキツネへの認識を改めさせ、キツネを日本らしい動物から世界で愛される動物に変えてしまうのかもしれない。

 

 

※本文内に含まれる情報は『JAPAN CLASS 第16弾』発売時(2018年2月刊)のものです。

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