外国人が17文字のハイク世界観に魅了!

和歌に端を発し、室町時代には庶民のあいだで流行。松尾芭蕉がその芸術性を高め、正岡子規によって成立した「俳句」。このコテコテの日本文学がなぜか海外でもてはやされており、世界には約70カ国、200万人とも300万人とも言われる俳句愛好者がいるという。なぜ、世界中で俳句が詠まれているのか。そのあたりを探ってみよう。

 

Text by Sayaka Hayashi

 

海外で評価される“お手軽さ”と“自然観”

近年、日本の「俳句」が世界的に流行を見せている。ユネスコの無形文化遺産登録を目指す活動も始まっており、いまや日本の一つの「文化」というだけにはとどまらない存在になってきた。

なぜ海外で俳句が流行っているのか、その大きなポイントは「短さ」そして「簡単さ」にあると、国際俳句交流協会事務局長の村岡弘さんは言う。

「五・七・五、たった17字で完結する俳句は、世界で一番短い詩と言えます。海外では俳句ほど短い詩というものはほとんどありませんね。特にヨーロッパではかなり長い詩が一般的。長さだけでなく内容も抽象的で難解なものが多く、詩は一般の人が詠むものというよりは、言ってみれば知的エリート、上流階級のものという存在なんです」

一方、俳句は短さゆえにとっつきやすく、見たもの、感じたことをそのままを表現するので、誰でも簡単に詠むことができる。西洋の詩にはないこの“お手軽さ”が海外でウケている要因なのだ。さらにインターネットで投稿しやすい文字数でもあり、海外ではつくった俳句をTwitterなどのSNSに投稿する若者も増えている。

また、自然をテーマに詠むというのもいまの時代にマッチしているところ。日本には自然を愛し、自然とともに生きる文化がむかしから根付いているが、対して、西洋人の自然に対する考え方は、国際俳句交流協会会長である物理学者の有馬朗人さんによると「自然を征服する、人間が生きていくために利用する、という考えが根本にある」という。近年になって世界的な環境問題への意識の高まりから、西洋人のあいだにも「自然環境を大切にする」「自然と共存する」という考え方が広がり、自然を大切にし、愛でる俳句がその点でも脚光を浴びているのだ。

 

 

「Haiku」に親しむアメリカの小学生たち

とはいえ、俳句が海外で注目され始めたのは決していまに始まった話ではない。むかしから海外での評価は高く、多くの研究がなされてきた。小泉八雲(1850〜1904。パトリック・ラフカディオ・ハーン)は俳句の良さを認めて海外に広めたことが知られている。俳句の世界進出に最も貢献したと言われているのはイギリスの日本文化研究者、レジナルド・ブライスだ。禅の精神に興味を持ち、1949年に発表された『Haiku』を始めとして俳句に関する書籍を何冊も出版している。現在も、英語圏で俳句の勉強をしようと思ったら、ブライスの書籍がバイブルとなっている。

そんなふうに、長きにわたって文化・学問としての俳句は海外でも高く評価されてきたのだが、アメリカの小学校ではなんと英語の勉強のために「Haiku」の授業が行われているという。短く簡単に作ることができる俳句は、子どもたちの表現力を磨くにも、語彙を増やすにも格好の教材なのだ。村岡さんは「西洋の詩は長いし、韻を踏むことが良しとされているので、まだ語彙力のない子どもにとっては難しい。その点、俳句は短く、自然を感じて見たものを、自分の言葉でそのまま詩にするのでわかりやすい」と話す。子どもの頃から俳句に触れる機会があることで、アメリカでは多くの人が身近な存在としては「Haiku」を知っているのだ。

 

リズムも季語も自由でいい、だから俳句は面白い

では海外で詠まれている俳句とはいったいどういうものなのか、2015年に安倍晋三首相が訪米した際にオバマ大統領(当時)が詠んだ句を見てみよう。

 

Spring, green and friendship

United States and Japan

Nagoyaka ni

 

これを見ると三行詩にはなっているものの、「五・七・五」のリズムはあまり感じられない。村岡さんは、「英語では一応は音節が五音節、七音節、五音節というものを俳句としていますが、日本ほどそこにこだわっているわけではないですね。音節で区切っても、日本の五・七・五のようにテンポのいいリズムにはならないんです。ですから短い詩で三行にして書くというのが俳句の基本とされています」と話す。

だからといって日本の俳人たちに「それは俳句ではない」と否定するような不寛容さはない。自由さも俳句の魅力であり、俳句を日本だけのものとせず、それぞれの国や地域ごとのルールで楽しめばいいというスタンスなのだ。

また俳句に必須である「季語」も、海外ではそれほど季節に敏感ではない国や地域もあり、必ずしも入れるというわけではない。音節、季語にこだわるよりもむしろ、「自然を表現する」ということのほうが重要とされているのだ。もちろん、自然を表現する俳句なので、海外でも季節を詠む俳句はあるが、国によって季節も違うので表現も変わってくると村岡さんは言う。

「国によっては年中“夏”というケースもありますしね。むしろ海外の方にとっての季節感は“雨期”とか“乾期”といったものが大きいですね。それらの季節の言葉が季語として使われていることも多いです。それから、日本以外にも四季のある地域はありますが、日本の“春夏秋冬”とはだいぶ違う。たとえば日本の俳人がドイツの句会へ行ったときの話なんですが、日本では“秋の風”というとさらりとした気持ちのいい風をイメージしますよね。でもドイツでは“秋の風”はもう寒くてさわやかどころではなくなってしまう。だから“秋の風”という言葉を直訳しても、違和感があるんです」

季語と一言で言っても、国や地域が違えばニュアンスも違う。たしかに翻訳となると難しいが、限られた文字数のなかでそれぞれのお国柄が伝わってくるのもまた俳句の深さ、楽しさと言えるだろう。

 

日本語の寛容さゆえに、誰もが楽しめる

先ほど紹介したオバマ大統領のHaikuは日本でも各紙で報道されたが、邦訳はさまざまだった。たとえば日本経済新聞は日本語の五・七・五にならって「春緑 日米友好 和やかに」。毎日新聞は五・七・五よりも意味に寄せて「春、緑と友情、米国と日本、ナゴヤカニ(和やかに)」。オバマ大統領が「nagoyaka ni」と日本語のフレーズを入れたところはカタカナ表記するなど、表記についても差が出ていた。

言語によって同じ意味の言葉でも長さも違えばリズムも違う。違和感なく対応する単語があるとも限らない。そもそも詩の翻訳というのは難しいものだが、文字数という縛りのある俳句ではそれがますます困難さを極めるのだ。そのわかりやすい例えが、世界でもっとも有名な俳句とされる松尾芭蕉の「古池や 蛙飛び込む 水の音」。村岡さんによると、この俳句の英訳は実に100通り以上もあるのだという。

蛙はflogと訳せるけれど、問題は蛙は一匹なのか、それとももっといるのか。英語だと単数形、複数形があるのでそこを確定させなければならない。一匹だとしたら、その前後のストーリーによって、付く冠詞も“a flog”なのか“the flog”なのかが変わってくる。複数いるのだとしたら、2~3匹をあらわす「a few」なのか、もっと多くて「many」なのか。もっと言えば、飛び込む水の音はどうなのか、そもそも蛙は実際に飛び込んだのか……。

このあたりは、日本でも解釈が人それぞれで、専門家の間でも意見が分かれているところではある。ただ日本語の俳句としては「古池や 蛙飛び込む 水の音」で成立するのが、「日本語のいいところ、寛容さ」だと村岡さんは言う。

「断定されていなくても、読んだ人それぞれがそれぞれのイメージを想起させます。想像をふくらませることで、それぞれにいろいろな情景が浮かび、誰もが自分なりに感じ取れるイメージがある。つまり誰もが楽しめる。これは、日本語の寛容さによるものですよね」

 

俳句が世界をつなぐ

自然への敬意、イメージを限定しない豊かな言葉、そして句からさまざまな情景を読み取る日本人の感性。これが当たり前のように世界に受け入れられているという事実は、日本人の「心」が世界のスタンダードになりつつあるということかもしれない。

「話が大きくなるようだけど」と村岡さんは続ける。「俳句が世界に広がることは、世界平和にもつながるんじゃないかな」と話す。じつは、中国・韓国・日本の関係においても俳句が一役買っていることがある。韓国には「時調」と呼ばれる短い詩がある。中国の漢詩は歴史が長いが、近年、日本の俳句にならって漢字の五文字、七文字、五文字で読まれる詩「漢俳(かんぱい)」が生まれ、2005年には漢俳学会が成立している。国際俳句交流協会会長の有馬氏は「俳句」、「時調」、「漢俳」、この三者を通じて文化レベルで交流を図っているのだ。

俳句の愛好家であり、元EU大統領ヘルマン・ファン・ロンパイ氏は日本でのイベントの際のスピーチで「俳句というのは生き方そのものであり、人間性を際立たせるもの。この対立と皮肉が渦巻く競争社会において、俳句は一種の解毒剤になる」と語った。「俳句が世界平和につながる」――それは決して大きすぎる話ではないのかもしれない。

 

 

※本文内に含まれる情報は『JAPAN CLASS 第8弾』発売時(2016年10月刊)のものです。

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