街にあふれる、とあるアイテムに外国人が感動!

福祉の進んだ国と言えば、北欧の国々を思い浮かべる方も多いだろうが、実は日本も決して負けてはいない。いや、負けていないどころか世界をリードする存在ですらある。我々日本人にとっては当たり前すぎて、その存在をやり過ごしてしまっていることも多いのだが。日本の街なかにある“思いやり”について、日本盲人会連合の工藤正一氏にお話をうかがってきた。

 

Text by Kentaro Ishi

 

日本人が生み出した
福祉アイテム
私たちがふだんなにげなく歩いている町並みのなかには、さまざまな優しい工夫、他人を思いやるアイテムが溢れている。たとえば点字ブロック(正式名称は視覚障害者誘導用ブロック)。歩道や駅のホームに敷かれている、視覚障害者のためのボツボツの突起がついた黄色いプレートのことだ。
あまりにも見慣れた光景なので、特段これを意識して街を歩くということはないかもしれないが、この点字ブロックは視覚障害を抱える方にとっては大事な命綱。
「あの点字ブロックがあるからこそ、私たちは安心して街を歩けるのです」
と語るのは、日本盲人連合会の総合相談室長・工藤正一氏だ。
この点字ブロック、実は日本で考案されたものだということをご存知だろうか。点字ブロックは、視覚障害者が安全に、かつ快適に移動できるための設備として、1967(昭和42)年に岡山県の三宅精一氏によって考案され、岡山県立盲学校近くの横断歩道に世界で初めて敷設された。それが、1973(昭和48)年に起きた高田馬場駅のホームから視覚障害者が転落するという痛ましい事故をきっかけに、全国に普及していったものだ。

 

日本の“思いやり”が
世界基準に
このブロックを利用する人たちは全盲の方だけではなく、弱視の方もいる。その方たちが視覚的にもわかりやすいよう、黄色となっていった経緯がある。
形状についても、実は何パターンか存在する。
注意してよく見てみると、細長くて四角いパイが横に並んでいるような突起は、誘導の印だ。杖でなぞっていくと、その方向に進んでいいという意味がある。一方、丸いポツポツが水玉のように並んでいるものは警告の意味を持つ。つまり、歩く向きが変わるところや、信号など一旦止まるべきところには、丸い警告の点字ブロックに変わることになる。
また、進むときは直線、曲がるときは直角に敷設されているのも点字ブロックの特徴で、これは視覚障害者がどちらを向いているのか認識しやすくするためだ。目をつぶって歩くとよくわかるが、緩やかなカーブを描いていたり、斜めに敷設されると、たちまち方向を見失ってしまうのだ。
このように視覚障害者にとっては命綱とも言える点字ブロックだけに、その上に気づかずに自転車をとめたり、荷物を置いたりすると大きな事故に繋がる可能性もある。ほんのちょっと意識するだけで、さらに暮らしやすい街になるだけに、気をつけたいところである。
さて、このように点字ブロックひとつ取り上げても、利用者にわかりやすい工夫がされているのだが、この点字ブロックが敷設されて間もないころには、その大きさや敷設のルールというものが存在しなかった。そのため、色や形がバラバラで、帯状の誘導ブロックの向きが人の歩く方向と違っていたりするなど、設置の仕方や基準がバラバラに運用されていた。
そこで、2001年、経済産業省が主導して、この点字ブロックがJIS規格(日本工業規格)化されたという経緯がある。その後、2012年には、点字ブロックの国際規格(ISO)は日本のJIS規格を基に定められ、現在では150カ国以上の国で使われているという。日本で開発された点字ブロックが、いまや世界基準になって、世界中の視覚障害者たちの役に立っているのだ。

 

“音”が知らせる
安心の合図
また、道を歩く視覚障害者にとって、青になったときに「とおりゃんせ」や「ピヨピヨ」と音が出る信号機の存在も大きい。日本が世界各国と比べても早い時期から設置を進めてきた「音付き」の信号機である。
この音が出る信号機、正確には「音響式信号機」といい、盲人会連合の工藤氏は「視覚障害者が横断歩道を渡るのは大げさではなく、本当に命がけなんです。ですから、この音響式信号機の存在は非常にありがたい」という。
日本には平成25年3月末現在で、全国で18,100基の信号機が設置されており、そのうち、音の鳴る信号機は約18,000基。約96%が音の鳴る方式となっている。そういえば、「ピヨピヨ」「カッコウ」と鳴る信号機を見かけたことがあるだろう。たまに「とおりゃんせ」や「故郷の空」などの音楽が流れる信号機も見かける。いまや信号機といえば音のなるものなのだ。
しかし、この信号機にも問題点がないわけではない。夜8時や9時になると、近所に配慮して、音が鳴らなくなってしまうものがほとんどだからだ。工藤氏によると「夜に鳴らなくなってしまうと、車の動きで信号を察知するしかない。でも、やっぱり怖くて一人ではなかなか渡れないんです。ただ、それでもどうしようもないときには、悲しい話なんですけど、信号が青だなと感じても、一度やり過ごすんです。そうするとまた車が動き出して、しばらくすると車が停まる気配がする。そのときに渡るのが確実なんです」という。
たしかに、突然音が鳴り出す仕組みは、ようやく寝入った赤ちゃんを起こしてしまったり、音に敏感な発達障害を抱えた方がパニックを起こしてしまうという事例もある。それでもいまではボタンを押したときだけ音が鳴る仕組みになっていたり、近隣住民に迷惑をかけない、プップップと小さい音が鳴る信号機も徐々に増えてきた。視覚障害者にとってはとても手強い横断歩道だが、誰もが安心して渡れる日がくるのも近いはずだ。

 

皇后陛下も関心を持たれた
日本の「街の優しさ」対策
もう一つ、視覚障害者にとって命がけの場所となるのが「駅のホーム」だと工藤氏はいう。
国土交通省の発表によれば、年間で3700件ものホーム転落事故が報告されている。なんと、1日に10件。
「それこそ私が失明した30年ほど前には、《ホームに落ちて一人前》なんて笑えない冗談が視覚障害者のなかで言われていましたけど(笑)、視覚障害者にとって駅のホームというのは、日常でありながらそれだけ危険な場所なんです。私自身、2度落ちていますし、それくらいの頻度で起こりえることなんです」
工藤氏によるといまではホームドアの設置などのおかげで、むかしと比べれば段違いに安心して歩けるようになったという。ただ、それでもホームからの転落事故はなくならない。
先日、82歳のお誕生日に際して寄せられた皇后陛下のご回答には、2016年8月に起きた視覚障害者の駅転落事故について、「これ以上悲しい事例が増えぬよう、皆して努力していくことも大切に思われます」というお言葉が発表された。
各鉄道会社は、ホームドア設置対策を急ピッチで進めている。予算のかかる事業であるが、これは、視覚障害者対策だけではなく、歩き回る子どもや、歩きスマホ、酔っぱらいによる転落事故防止にもつながる。

 

これぞニッポン!
世界最高クラスのホスピタリティ
工藤氏によれば、点字ブロックや音付き信号の普及、ホームドアの設置などによって、外を出歩く視覚障害者は、以前と比べて格段に増えたという。たしかに、駅や電車のなかなど、いたるところに点字の案内があって、自分がいまどの場所にいるのかなど必要な情報がすぐにわかるようになっている。工藤氏は語る。
「日本で暮らしていてさらにすごいなと思うのは、視覚障害者が飛行機に乗ってでも、電車に乗ってでも、好きなところへ一人で行けることですね」
たしかに、都心のターミナル駅では、こんな風景をよく目にする。
電車がホームに滑り込んで、ホームドアが開き、電車の扉が開く。と同時に、駅員はホームと車両の間に折りたたみの板を敷き、車椅子を押して、車内にいる車椅子に乗った男性を降車させる。「お客様降車完了!」といった掛け声とともに、ドアが閉められ、何事もなく電車は次の駅を目指していく。そして、男性の乗った車椅子は駅員に押され、乗り換えの改札まで案内されて行くのだ……。
私たちが何気なく目にするこの光景だが、よく考えてみると、駅員の連携プレーはすごいことだ。車椅子の乗客は、事前にどこの駅まで行くということが伝えられ、降車する駅では駅員が待機して、バトンを繋ぐリレーのように車椅子のお客様を次の路線の改札まで誘導していくのである。こうして、たとえば高田馬場駅から、大阪の鶴橋駅まで、リレー方式でちゃんと電車を乗り継ぐことが可能なのだ。
「これはすごいことですよ。こういうところまでやっている国って、日本以外にないですよね」
と工藤氏も語るほど、日本の鉄道会社、航空会社のホスピタリティの高さは、世界でも有数レベルのものだ。これはなにも、車椅子の方だけではない。視覚障害者、松葉杖をついている人なども同様だ。

 

シャイな日本人も、
心をバリアフリーに!
このような、社会的弱者に対する思いやりのある行動や、相手の立場に立ってシステマティックに行動できるのが、日本社会の良さとも言える。
しかしその反面、日本人はすこしシャイな一面もある。たとえば、駅のエスカレーターで、あなたが視覚障害の方のそばを通りがかったとき、どうするか。たしかに、どのように声をかけたり、手を差し出せばよいのか、戸惑うこともある。これにも実は正しい答えがあって、視覚障害者の左に立って、視覚障害者はあなたの右肘を掴んでもらうのがいいのだという。
「私たち視覚障害者は《なにか困ってないですか?》という一言だけでも声をかけてもらうのが本当にありがたいんですよ。最近はそういう声かけをしていただくことも増えてきましたけど、日本人のシャイさや、奥ゆかしさはひとまずおいて、《おせっかい》をやいていただけると非常にうれしいです」
「おせっかい」と思われても、困っている人々に対しては積極的に声をかけていくことが大切。街のバリアフリーが進んでいくいま、さらに求められるのは日本人らしい気遣い、思いやりをもった心のバリアフリー。そうした私たちのちょっとした心がけや声かけこそ、誰にとっても優しい街を形成していく源となっていくのだ。

 

 

取材協力
社会福祉法人日本盲人会連合
視覚障害者自身の手で、“自立と社会参加”を実現しようと組織された視覚障害者の全国組織で、1948(昭和23)年に結成された、都道府県・政令指定都市における61の視覚障害者を主体とする団体により構成され、視覚障害者福祉の向上を目指し、組織的な活動を展開している社会福祉法人。全国の視覚障害者団体に対する連絡及び助成事業ほか、点字図書館の設置運営、福祉用具の販売、福祉一般に関する調査研究など、多岐にわたって活動している。

 

 

※本文内に含まれる情報は『JAPAN CLASS 第9弾』発売時(2016年12月刊)のものです。

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