外国人が大絶賛! もう、ニッポンの文房具しか使えない!

イラスト◉豊村真里 写真と本文は関係ありません。

ふだんからなんの気なしに使っている筆記具。よほどのマニアでもない限り、まじまじと眺めてみることもなければ、使い勝手の良さを意識することもないだろう。しかしながら手元にあるボールペンひとつとってみても、実はグリップに、ペン先に、 インクにと日本の文具メーカーの創意工夫が詰まったシロモノなのだ。 海外ではそんな日本製の筆記具が爆売れ中。“滑らか”“消える”など従来にはなかった特徴にAmazonほかネットショップのコメント欄は絶賛に次ぐ絶賛で、ズラリと5つ星が並んでいる。外国人を惹きつけてやまない日本の筆記具。各国の文化的背景によって売れる筆記具に違いがあるのにも注目だ。

Text by Akira Hara

大統領の愛用品に
ここ日本において筆記具はコンビニ、スーパー、ホームセンター、さらにはドラッグストアと、あまりにも当たり前に並べられているため、日本人からするとそのありがたみ、価値を改めて認識する機会はあまり多くはない。しかしながらひとたび世界の声に耳を傾けると、そのデザイン、品質、最先端の利便性から、日本の筆記具は世界一という評価がいたるところから聞こえてくる。

日本の文具メーカーは、消費者の反応を注意深くうかがいながら、継続的に洗練させていき、新しいモデルの製品を頻繁に出し続けるのを得意とする。消費者に対する真摯な態度や文化的な背景を反映させて開発され続ける筆記具は、日本よりもペン文化が浸透している欧米で高い評価を得ているのだ。

日本の筆記具が最初に世界を驚かせたのは、50年以上も前に遡る。

ぺんてる株式会社が1963年に発売を開始した「サインペン」が世界に打って出たのだ。ぺんてるの「サインペン」は、発売当初、日本国内では見向きもされなかったが、翌年シカゴで行われた文具国際見本市に出展すると、当時のジョンソン大統領の目に留まることになり、“大統領の愛用品”として大人気を博す。1965年には、NASAが有人宇宙飛行計画「ジェミニ」に使用する公式スペースペンとしてサインペンが採用された。その後も外観をほとんど変えることなく、書きやすさにこだわって進化し続けたサインペンは時代を超えたロングセラー商品となり、現在までに国内外累計で21億本以上も売れている。

サインペンの成功もあって、その後、日本のメーカーは高付加価値ペンを地道に開発し続け、海外市場を開拓してきた。それが加速したのが2000年以降。人口の減少、少子化やIT機器の普及などの影響によって国内文具需要の減少が顕著になり始めたためだ。成熟した国内市場に代わり、まだまだ成長の余地がある海外での販売拡大に向けて、本格的な取り組みを見せるメーカーが現れはじめる。

そのうちのひとつが三菱鉛筆株式会社だ。

三菱鉛筆は、流れるような書き味が特長の「ジェットストリーム」を2003年に北米で先行発売。同社の海外ブランドである「Uni-ball」名義で販売すると、その書き味が「魔法のよう!」と評判になり生産が追いつかないほどの売れ行きを見せ、Amazonにも高い評価が書き連ねられた。

2006年に日本でも発売されると、100万本売れればヒットと言われているボールペン市場で、国内・国外合わせ半年で1000万本以上という異例の販売を記録した。現在は世界60カ国以上に年間1億本以上販売されている。

面白いのが、中国語など漢字文化の国ではむしろ滑らかすぎて書きづらいという印象をもつ人がいるところ。

海外のサイトでも「中国人の友達は、ペン先が滑りまくって中国文字のトメ、ハネが書きづらい、字が汚くなると言ってたけど、英文の筆記体には問題ない。思考と同じ速度で書けるペンなんて、これまでなかった」という感想が掲載されている。文化の差によって筆記具に求められる性能も変わるのだ。

人口6600万人のフランスで6000万本が売れるという爆発的なヒットを記録した「フリクションボール」も、国民的商品と呼ばれるまでになった裏には、ある文化的背景がある。

株式会社パイロットコーポレーションの消せるボールペン「フリクションボール」は、2006年に世界に先駆けてフランスで発売された。

フランスではいまも学校教育の場で万年筆やボールペンが使われている。小学生であっても鉛筆ではなく、万年筆やボールペンでノートをとり、書き損じた場合は、化学反応でインクを消すインク消しを使う。だが、インク消しを使うと、修正箇所に上書きしても、化学反応してまた消えてしまうために、インク消しでは消えない別のペンが必要となる。結果、「筆記用に主に使うペン」と「インク消し」、「インク消しで消えない書き直し用のペン」の3種類が不可欠だったのだ。

そんなフランスの学生たちにとって、こするだけでインクが消えるフリクションボールの登場は衝撃的だった。

日本での発売は2007年。以後世界100カ国以上で販売され、2014年3月には、世界累計販売本数が10億本を突破した。

 

隠れた名品文具“チョーク”

海外から絶賛されているのはボールペンにとどまらない。なかでも異例の人気を集めたのが羽衣文具のチョークだ。

羽衣文具のチョークは海外のそれよりも格段に品質が高く、各国の講師などが欲しがる世界水準のチョークとされ、「チョーク界のロールスロイス」とも称されていた。残念ながら羽衣文具は2015年3月に廃業してしまったが、それが海外に伝わるや、世界中の数学者や教授が買いだめしたという。

「硬度が絶妙なんだ。材料に牡蠣の殻が使われているから、実に丁度いい柔らかさで、真っ白な仕上がりになってる。粉も出ないしね。ワックスが薄く何重にもつけられているから、手を汚すということもないっていうかなりの優れもの」 、「ハゴロモのチョークだと文字をハッキリと黒板に書けるし、消すのも楽で、折れてしまうことも少ない。それにほかのメーカーと違って、あの嫌な音が出ない気がする」と絶賛する声も多い。

スタンフォード大学の教授のなかには、今後15年分の羽衣文具のチョークを買いだめした猛者もいて、アマゾンで72本入り20ドルだった価格が、3倍の60ドルにまで跳ね上がったこともあった。

 

日本文具の潜在ニーズの高さ

なぜそれほどに日本の文具は海外の国から愛されているのか? それは日本の文具メーカーほど、繊細に消費者のニーズ、使い勝手にこだわり、それを可能にする技術を根気強く開発する国はないからだ。

日本の文具産業は、バブル崩壊以後、安い中国製の氾濫に苦しめられた。その結果、価格だけでなく、機能やデザインを工夫させた付加価値商品、差別化ポイントを明確に打ち出した商品の開発に活路を見出すしかなくなった。そのことが日本の文具が海外から愛されようになった背景なのだ。

海外の文具は、「書ければいい」「切れればいい」という、大雑把な着地点を目指して商品開発され、デザインやボールペンのグリップラバーなど、外装面・補助機能面のみの変化だけで、本質的な機能の改善はほとんどされない。

一方、日本の文具メーカーはどこもが「商品開発の原点は現場にある」との認識で、消費者がいままさに困っていること、面倒に思っていることを、本質的な機能の改善により解消しようとスタンスでいる。

海外のメーカーが、自社の技術ありきのものづくりで、消費者に対しての“押し売り”傾向にあるのに対し、日本のメーカーは、市場や消費者が求めているものに合わせて自社の技術やノウハウをマッチさせる“マーケットインのものづくり”である。

例えば北米でも人気の高いコクヨの「ハリナックス」は、針を使わないステープラー(ホッチキス)として2009年12月に発売された。この商品も個人情報保護にこだわり、不要な書類はすぐにシュレッダー行きというアメリカの文化的背景がヒットに一役買っている。針で綴じた資料を誤ってシュレッダーにかけてしまうとゴミの分別ができないどころか、機械が壊れたり怪我をする危険がある。シュレッダーにかけるにも、ゴミ箱に捨てるにも、いちいち針を取るという手間がかかるのだ。その問題を一気に解決したのがハリナックスというわけだ。

ハリナックスはその後も綴じ枚数を増やしたり小型化したりと進化を続け、2014年10月には「大切な書類に穴を開けたくない」という消費者に向けて「ハリナックスプレス」を開発した。文具に関して、ここまで消費者の満足を追求するのは日本だけである。そうした「顧客密着重視」のコンセプトがいま、国内だけでなく、海外でも評価されてきているのだろう。 “消費者のシンプルな悩み”に応え、“自分の生活に必要”だと感じさせ、顧客に“買いたい”という気持ちにさせる商品を開発する。「もっと滑らかに書けるボールペンが欲しい」「いちいち修正液を使うのは面倒だ」といった“消費者のシンプルな悩み”というのは、世界共通。だからこそ、「なにがなんでもこの国の人々に買ってもらうのだ」というメーカーの姿勢で海外に広まった文具だけでなく、「自分たちの知らないところで、自分たちの商品を心から求めている方々がいた」という文具も生まれる。これは日本の文具に対する潜在ニーズの高さを物語っていると言えよう。

 

※本文内に含まれる情報は『JAPAN CLASS 第4弾』発売時(2015年12月刊)のものです。

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