日本の“オシャレ”が、世界のファッションを足元から変える!

写真◉TOM

海外で日本の“オタク”発信の文化が広まっている。
とはいってもマンガやアニメといった、いわゆる”オタクの王道”のことではない。実際、それらは世界に広まっている――というよりもすでに当たり前にそこにあるものとして受け入れられているのだが、いま新たに海外からの注目を集めているのが日本のファッション。“オタク”から発信された遊び心満載のファッションアイテムや「kawaii!」アイテムが海外の幅広い層にウケているのだ。
特に海外では機能性を重視した商品の多いくつ下やタイツなど足元のファッションアイテムは、「面白い」「かわいい」と大きな注目を集めている。
足元から広がる日本の“オシャレ”に着目してみよう。

 

Text by Dai Okada

 

それは
オタク文化で世界をハッピーに――
から始まった

日本のマンガ、アニメ、ゲームが世界中で人気を呼んでいるのは周知の事実。その最前線で仕事として携わっているTokyo Otaku Mode(トーキョー・オタク・モード)広報担当者にお話を伺った。まずはTokyo Otaku Mode(以下TOM)についてご紹介しておこう。
オタク文化で世界をハッピーに―――。
こんな理念を掲げ、日本のマンガやアニメに代表されるポップカルチャーに関する情報を世界に向けて発信、さらには関連商品の販売を行っているのがTOM。2011年に社会人サークルとして集まった創業メンバーが、日本のアニメやマンガなどの情報を英語で伝えるFacebookのページを開設。すると、またたく間に海外のファンが増え、フォロワー(閲覧登録者)の数は一気に一千万人台にまでふくれ上がった(2015年7月現在は1,767万人超)。そして、2012年に法人化。2013年にEコマース(ネット通販)のサービスをスタート。2014年には官民ファンドのクールジャパン機構から最大15億円の資金を受けるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている注目の新興企業である。
「もともと当社は“オタク”という言葉から皆さんが連想するような、マンガ、アニメ、ゲームを中心にした情報を、Facebookを通じて世界に発信していくニュースメディアとして出発したんです。いわゆるアキバ系のど真ん中、というのが主だった内容でした。ただ、やっていくなかで、ど真ん中のオタク的ではない路線のもの、例えばラテアートとか、キャラ弁とかに対しても、興味を示す人が多いことがわかっていきました。へ~、という感じでしたね。マンガ、アニメ、ゲーム以外の日本のモノやコトを好む人が意外に多い。これがわかったので、扱うジャンルの範囲をどんどん広げていきました。ですので、社名にオタクの文字が入っていますが、実はそんなにオタクっぽくないものもけっこう扱っています。日本にしかないもの。海外の人が『面白い』『かわいい』と言ってくれるもの。これらをすべてひっくるめた、日本のポップカルチャー全体を幅広くカバーしていこうというのが現在の当社の方向性です」

 

「それ、どこで買えるの?」
日本の「面白い」が予想外の展開を生む

マンガ、アニメ、ゲームら王道路線を行くものは当然大人気なのだが、利用者の関心が高いものはそれだけにとどまらない。日本人が創り出すありとあらゆる“作品”に、海外の人たちがアツい視線を送っている。これが現状なのだ。TOMの創業メンバーも、最初は「人気キャラのフィギュアとかにいちばん需要があるんだろうなぁ」と思っていた。しかしその考えは、世界中の反応を見るにつれ徐々に変わっていった。なにがウケるかはわからない。固定観念にとらわれてはいけない。そんな意識がメンバーのあいだに浸透していった。日本人の想像をはるかに超えた“真実”が、海の向こうには存在したのだ。
「創業当初は情報発信が主な業務で、グッズの販売は行っていませんでした。その後、Eコマースを始めることになるわけですが、Facebookのコメント欄に海外の皆さんから“切実な願い”が寄せられたことがその背景にあります。例えば『日本でこんなものが売っているよ』とか『こんな新しい漫画が出たよ』といった記事を公開しますよね? そこに書き込まれるコメントの多くは『イイね』や『面白そう』といったものなんですが、『それ、どこで買えるの?』『どこに行けば売ってるの?』という内容もけっこう目立ったんです。ここでハッと気づきました。そうか、彼らは買いたくてもすぐに買えないのか、と。それなら、僕らが問題を解決してあげようということになって、Eコマースをスタートさせたんです。海外の人が日本のこういうグッズを入手するのはものすごくハードルが高いので、情報を発信しつつ、そこで欲しいと思ったものが買えるようになれば、ユーザーにとって便利になるんじゃないかと考えました。情報発信以外にも、会社としてもうひとつビジネスの柱が欲しかったので、悩む間もなくという感じでしたね」
Eコマースを開始するにあたり、最も重要になるのは商品のラインナップである。人気アニメの関連グッズを隙間なく棚に並べれば顧客満足度が高まり、売上面での期待もできるが、著作権や販売権の問題もあるのでそうすんなりとはいかない。それでも、棚は充実させたい。TOMにはそんな思いがあった。
ここでクローズアップされたのが、権利関係に関して比較的ハードルの低い商品だ。ぬいぐるみ、かわいい動物のイラストがあしらわれた文房具、弁当箱、キッチン用品などなど。オタクグッズというよりはファンシーグッズのカテゴリーに入るような商品も、とりあえず置いてみることにした。なにがウケるかわからないのだから、なにが売れるのかもわからない。ダメだったら仕方がない。ユーザーの反応から学びつつあったことを、Eコマースの運営方針にそのまま盛り込んだわけである。
「最初から偏見を持たないようにしていたのが良かったのかもしれません。予想外の商品がけっこう売れるんですよね。もちろん、海外にも典型的な“アキバ系のオタク”のような方はいまして、わかりやすく萌え系のフィギュアやポスターといったものを購入される方も多いんですが、一方で100円ショップなどで売っている小物や面白グッズ的なものを買われていく方も相当数いる。『珍しい』『面白い』と言ってくれる。そんな傾向が見られました。我々がふだん当たり前のように目にしているものでも、海外の人からするとものすごく新鮮に映るみたいですね。一般層というと語弊があるかもしれませんが、いわゆるオタク層ではない、サブカル好きというわけではない方々にも、TOMの存在が徐々に知れ渡っていったと実感できました」
権利関係の取得が難しい商品を最初から充実させるのは困難なこと。マンガ、アニメ、ゲーム以外の需要も確実に存在すると学んだこと。この2つの条件が重なったことにより、半信半疑で棚に陳列した非オタク系商品が売れるという、いささか予想外の展開がTOMのメンバーを待ち受けていた。

 

2万4,000貫の
くつ下が海を渡る!?

そんななか、気になるのはやはり「具体的になにが売れているのか?」である。意外性があって、インパクト十分で、話題性に富んでいる―――そんな商品を、総合的に判断してあえてひとつピックアップするとしたら……。
「『寿司そっくす』ですね。膝下まであるふつうのハイソックスなんですが、丸めてたたむと、お寿司の握りのような形になるんです。エビとかサーモンとか玉子とか。軍艦もちゃんと揃っていて、イクラとか、変わったところではコーンマヨなんてものもあります。ビジュアル的に面白いこともあって、多くの外国人のハートをつかんだようです。海外でも日本の寿司は有名ですからね。みんなが知っている食べ物がモチーフになっている点も、人気を後押ししたと思います」
この意外なヒット商品をラインナップに加えるキッカケはなんだったのだろうか。
「東急ハンズでたまたま見かけたんです。見た瞬間、ああ、この手の商品は外国人が好きだろうなぁと思いました。お寿司は大人気ですしね。ただ、絶対に売れる!という自信があったわけではありません。有名なアニメのキャラクターなどのグッズと違って、確実性はないですし、売れセンというか、TOMが探し求めている商材の路線からズレていることはわかっていましたから。だから、こんなものを見つけたんだけど、どうかな~?という、だいぶやんわりとしたノリで営業チームに提案してみたんです。それが、まさかこんなことになるとは(笑)」
「寿司そっくす」の販売を開始したのは2014年8月のこと。最初から爆発的ヒットとなったわけではない。ボチボチ売れてるかな。思ったよりも悪くないな。その程度だった。
しかし、あるときを境に状況が一変する。ネット上のウワサがさまざまなルートで各国に伝播していったのだろう。海外のメディアからカスタマーサポートへの問い合わせが相次いだ。TOMのFacebookで「寿司そっくす」を見た。とても面白いので、ぜひ紹介させてほしい。写真も使わせてもらえないか? 世界中の雑誌やWEBサイトの編集者から、こんな依頼が舞い込んだのだ。フィンランド、オーストラリア、アメリカ、ドイツ、イギリスなど、10カ国以上の異なるメディアが「寿司そっくす」に飛び付いた。
その後、売上は急上昇。おそらく、メディアが紹介した記事を目にした人々が興味を持ち、こぞって購入したものと推測される。そしてそれが口コミで広まり、売上アップにさらに拍車をかけることになった。
「最初は単品で一足ずつ売っていたんですが、これはイケると確信してからは、セット販売をしたり、寿司桶の中に一足ずつキレイに並べて“特上寿司”を作ってみたり、どんどん手の込んだ見せ方、売り方をしていきました。最終的には、本物のお寿司屋さんで撮影したプロモーション動画まで作っちゃいまして……。現在も欧米を中心に世界中から注文をいただいていて、売上総数はつい先日1万2,000足を超えました。一足は二貫ワンセットですので、その倍となる2万4,000貫がこれまで海を渡った計算になります(笑)」
「『寿司そっくす』を作っているのは、富山に本社を構える助野株式会社というレッグアパレルメーカーさんなんですが、外国人にここまでウケたことに驚かれていました。そもそも海外はターゲットとして想定外で、寿司グッズのひとつとして、お土産屋さんやお寿司屋さんのレジの脇に置いて売ることを考えていたそうです。助野さんは基本的に実用的な靴下をメインに作られているので、『寿司そっくす』が会社全体の売上を揺るがすほど売れたというわけではありませんが、ギフトショーなどに出展するチャレンジングな商品のなかでは、かなりの大ヒットになったとおっしゃっていました」
そうなのだ。靴下はもともと西洋から伝わってきたものであり、さらにはどこの国にもある生活必需品のひとつなので、外国人をターゲットにしたり、海外で売るためにガンガン輸出したり、という発想にはなかなか至らない。助野さんのこのリアクションには、すこぶる納得ができる。
しかし、現状や実態を掘り下げて探っていくと……。靴下市場において、色や形などの種類が豊富なのは日本くらいのもので、諸外国では限られたデザインのものしか売られていないという事実にたどり着くのだ。基本は単色で、考慮されるのは機能性のみ。そこに“遊び心”が入り込む余地はない。というより、そもそもそんな発想がない。「寿司そっくす」が外国人にウケる理由はいろいろ考えられるが、いちばんは“もの珍しさ”ということになるのだろう。

 

海外には「ない」が、
日本にはたくさん「ある」

そういえば、先日たまたまテレビで観た情報バラエティ番組で、外国人観光客の意外な人気スポットとして靴下専門店が紹介されていた。インタビューに答えていた観光客は、指先が分かれたつくりになっている五本指靴下を見てビックリ仰天。「こんなものは(自分の国では)見たことがない。しかも、指先ごとに色が違うんだから驚きだね。お土産用にちゃんと買ったよ」とうれしそうに語っていた。
「このあいだ、当社が投資を受けているクールジャパン機構さんにこの話をしたんです。そうしたら、売れるのはすごくよくわかると話されていましたね。実は海外のデパートには、靴下コーナーとか、ハンカチコーナーとか、小物類の単独コーナーが存在しないそうなんです。商品数が少ないのでコーナーが作れないし、基本的に靴下でオシャレをする感覚がないと。その話を聞いて、なるほど、そういうことかと思いました」
外国人にとっては見たことのないようなユニークなデザインが話題となり、人気商品となった「寿司そっくす」だが、購入目的がすべて「自分で履くため」「オシャレのため」というわけではない。「サプライズ」や「ネタの仕込み」が好まれるのは万国共通ということなのか、「他人に渡す・見せる」ことを目的に購入する層もかなりの数に上るそうだ。
「ギフト用としての需要が高いことも感じられますね。クリスマス商戦の時期に、グッと売上が伸びました。印象的だったのは、健康食品を会員制で販売しているスイスの会社からの問い合わせです。ロイヤルカスタマー向けに『寿司そっくす』をプレゼントしたいんだけど、在庫はどれくらいあるか?と。こういう会社単位の一括購入というケースが多いわけではありませんが、誰かに贈ることを目的に購入される方はけっこういらっしゃると実感しています」
なにが売れるかはわからないので、先入観を持たずにとりあえず商品棚に並べてみる。これがTOMの基本スタンスだが、ただやみくもに、なんでもかんでも試しているわけではない。売れた商品を見て、傾向を分析し、次なる策を講じるというビジネスの鉄則もきちんと守っている。「寿司そっくす」のヒットを受け、足元のオシャレというテーマに注目。今度はタイツ、ストッキングに新たな可能性を求めた。

 

Kawaiiiiiii!!
日本発のファッションが世界を席巻か!?

「『寿司そっくす』が売れたこと。それから、Facebookに載せたある写真に対するユーザーの反応が、新たなチャレンジへの後押しをしてくれました。2015年の3月に、原宿系女子ファッションの王道とも言える、かわいいネコがあしらわれたタイツの写真を何枚かアップしたんですよね。そうしたら、世界中から『いいね!』が殺到し、シェアの件数もとんでもないスピードで伸びていきました。寄せられるコメントも絶賛の嵐で、みんな興奮気味に『欲しい!』『キュート!』『ラブリー!』『Kawaiiiiiii!!』と連呼してくれたんです。これを見て、こっち系の路線も売れるぞと確信し、おそらく日本にしかないであろうデザインのタイツやストッキングの販売を開始しました。おかげさまで、こちらの売れ行きもかなりのものです。とくにアニマル系をモチーフにしたタイツが売れています」
日本発のレッグファッション、フットファッションが世界を席巻―――。というのはさすがに言い過ぎかもしれないが、壮大なブームの波がキていることに疑いの余地はない。TOMではまだ主力商品として扱われていないが、日本独自の履き物に対する注目度も、近年うなぎ登りで上がっている。
アメリカのAMAZONでは地下足袋が大絶賛され、売上を大きく伸ばしているという。地下足袋→忍者シューズ→クール! ノリはまさにこれ。レビュー欄には熱烈ファンからの称賛の書き込みが絶えず、柔軟性の高さや軽さ、履き心地の良さが高く評価されている。建設現場で実用的に履いている人もいれば、ファッションとして洋服とのコーディネイトを楽しんでいる人もいる。デザインや色彩もバラエティに富んでおり、ヨーロッパでも負けず劣らず人気は高い。このあたりは、靴下に通じるところがあると言えよう。
また、アシックスが手掛ける旧社名を冠したシューズブランド「オニツカタイガー」のスニーカーが、世界中でバカ売れしている現実も見逃せない。レトロなデザインとシンプルなカラーリングが好評で、とくにヨーロッパでの人気が高い。ヨーロッパにおける「オニツカタイガー」ブランドの売上は、すでに日本国内の2倍以上を記録しているそうだ。
日本の商品は種類がたくさんあるので、個性を出しやすい。他人と違うものを身に着けたいと思っている外国人にとっては、まさに願ったり叶ったりの存在なのだろう。インターネットの普及により、情報伝播のスピード・範囲は、一時代前とは比べものにならないレベルになった。「そんなものがあるのか! ならば欲しい」。こうなる人が怒涛のごとく増えていくのは、むしろ自然のことなのかもしれない。
「『寿司そっくす』とネコタイツが新規顧客を開拓してくれた面もありますので、いまは足元系のファッションにとどまらず、新たな可能性を求めて洋服も含めたアパレル全般の商品を展開していく方向で進めています。手始めに若い女の子向けのかわいい服を売り出してみたんですが、滑り出しは上々です。当社のアメリカ人のアパレル担当者によると、日本人はとにかく突き詰める、そこがすごいと言っていました。ガーリー系もゴスロリ系も、フリルを極限までヒラヒラさせた、インパクト抜群のデザインの服を作る、と。そういうユニークなものは海外にはないので、よけい魅力的に感じるそうなんです。好きな人は、日本語のファッションサイトとか、かなりマニアックなところまでチェックしているみたいですね。なんでもこの前は、メールに日本のサイトのURLが貼ってあって、『この商品は売らないのか?』という問い合わせもあったとか。そういう話を聞くと、アパレルには無限の可能性を感じますね」
日本の服=民族衣装=和服と考えるのはもう古い。いまや、逆輸入のかたちで日本の洋服が海の向こうで猛威を振るう時代になった。足元のファッションからアパレル全体に広がるJAPANの風―――。その可能性は国や地域を問わず、果てしない広がりをみせているのだ。近い将来、「日本の服が世界一オシャレ」という認識が万国共通のものになる日が、もしかしたら訪れるかもしれない。

 

※本文内に含まれる情報は『JAPAN CLASS 第3弾』発売時(2015年8月刊)のものです。

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